「なんでもできる!なんでもなれる!」HUGプリが教えてくれたこと

childhood

「HUGプリ」が終わる

とうとう、来週、最終回を迎えてしまう。

『HUGっと!プリキュア』の話だ。

私はこの1年間、このアニメをずっと観つづけてきた。今回、この素晴らしい作品を手がけた制作陣へ感謝の気持ちを込めて、記事を書きたい。

打ち破られる予想

『HUGっと!プリキュア』(以下、「HUGプリ」)は、テレビ朝日の人気アニメ「プリキュアシリーズ」の通算15作目に当たる作品である。

私がプリキュアを観るようになったのは、前作、『キラキラ☆プリキュアアラモード』(以下、「プリアラ」)がきっかけだった。

女児向けの作品とは思えない、繊細な心理描写に、強く心を打たれた。そして、その最終回に現れたHUGプリのヒロイン、野乃はな。彼女との出会いは、今でもはっきりと記憶に残っている。

だが、正直な話をすれば、放映前、私はHUGプリに対して、特に大きな期待を抱いていた訳ではない。

野乃はなの元に突如出現した赤ちゃん、はぐたん。はぐたんを抱きしめる、はなの姿が打ち出されたビジュアルは、否応なく「母性」という概念を表象する。

女児に対して、育児の大切さを伝える教育的なアニメ。私は最初、HUGプリをそのような作品だと認識していた。だが、私のこの認識は、回が進むにつれてあっけなく打ち破られてゆく。

真実の重さ

初期のHUGプリは、視聴者に対して辛く重い心情を抱かせる場面が多かった。

特に話題になったのは、8話『ほまれ脱退!?スケート王子が急接近!』だ。

フィギュアスケートの練習のため、輝木ほまれをモスクワに誘う若宮アンリは、はなに対してこう言い放つ。

「君って無責任だね。がんばれって言われなくてもほまれはがんばるよ。応援なんて誰にでもできる。その無責任ながんばれが 彼女の重荷になってるんだよ」

誰かを応援するプリキュア、キュアエールである、はなの存在意義を否定する発言。アンリの言葉が重く響くのは、それが一定の真実を含むからだ。

私は毎週一人でこの番組を観ているが、もし、私に子供がいたら、彼/彼女にどう声を掛ければよいだろう。そんな空虚な疑問が、私の頭の中にずっと浮かんでいた。

また、16話『みんなのカリスマ!?ほまれ師匠はつらいよ』の結末も衝撃的だった。

はな達の敵として活動していたアンドロイド、ルールーが、ほまれから奪ったプリハート(プリキュアに変身するためのアイテム)を、自らほまれに返す。だが、それによって、ルールーは裏切り者として、敵から一瞬のうちに破壊されてしまう。

それまでの明るい雰囲気から急転回した結末に、私は困惑した。このまま1週間も、この感情を引き摺らなければいけないのか。

HUGプリは、想像を遥かに超えるレベルで、人間の心を、深く揺さぶってゆく。その力に、私はただ圧倒されるばかりだった。

なんでもできる、なんでもなれる

HUGプリのキャッチコピーは、「なんでもできる!なんでもなれる!輝く未来を抱きしめて!」である。一見して、子供向けによくあるタイプのメッセージだ。私も最初は、この言葉を全く信じていなかった。

言うまでもないことだが、「プリキュアシリーズ」は、変身アイテムなど各種グッズの販売により成立する商業作品である。

メインのターゲットは、幼児から小学校低学年までの、女児。作品を構成する際には、なによりもまず、彼女たちの願望を叶えることが優先される。

これまで、プリキュアシリーズでは、プリキュアに変身する資格を持つのは女の子だった。

「男の子はプリキュアには『なれない』」という、絶対的な命題を乗り越えられるはずがない。私はそう冷静に捉えていた。

アンドロイドの愛

だが、20話「キュアマシェリとキュアアムール!フレフレ!愛のプリキュア!」で、ルールーが、愛崎えみると奇跡を起こし、愛のプリキュア、キュアアムールに変身した時に、変化の予兆が見えた。

ルールーは、製作者のドクター・トラウムから、ジェンダーとして女性性を付与されているが、身体的な性別はない。非生物としてのアンドロイドがプリキュアになった。という事実は、私を少なからず驚かせた。

もしかしたら、もしかするのかもしれない。そんな予感が脳裏を掠めた。

無限のプリキュア・キュアアンフィニ

その予感は、42話「エールの交換!これが私の応援だ!!」で、実現した。

若宮アンリは、足の怪我の絶望から、一度は敵であるクライアス社の手に堕ちる。だが、はな達の応援により、自らを闇から解放し、キュアアンフィニに変身した。「アンフィニ」はフランス語で無限を意味する。

若宮アンリは、男性としてプリキュアに変身した初の人物だ。「プリアラ」で、男性キャラクターのリオが切り拓いた可能性が、ここで現実化したのである。

この回は、放映終了後もツイッタートレンドで「キュアアンフィニ」が1位になるなど、大きな話題を集めた。

最大級のエールを

そして、今日の最終決戦では、はなを応援するすべての人々が、プリキュアに変身するという場面があった。性別も年齢も、もはや関係なく、私たちは誰かを応援できるのだ。

「私はなりたいものには『なれない』」という不可視の呪縛を解き放ち、「なんでもできる!なんでもなれる!」というテーマを体現した製作陣に、私は最大級のエールを贈りたい。

特に、シリーズ構成・脚本を担当した、坪田文さんには、感謝してもしきれない。

来週は、HUGプリの最終回である。未来から訪れた人々との別れ、新たな旅立ち。私は、最後まではな達を応援したいと思う。







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