遠回りな発想
ツイッターで、「Googleマップの表示がおかしくなった」という問題が話題になっていた。
ゼンリンが切られて新しくなったGoogleマップ、航空写真で山の陰になってる部分を誤認識して謎の湖ができてる。(5chスレより) https://t.co/uuBHrljkGk pic.twitter.com/ryJAlQt1FE
— Umeboshi (@UmeboshiGohan) March 22, 2019
報道では、Googleが、地図情報企業ゼンリンとの契約を終了し、自社のデータを使用し始めたのが原因だと推測されている。
「Googleマップが劣化した」不満の声が相次ぐ ゼンリンとの契約解除で日本地図データを自社製に変更か
私も、日常生活で、Googleマップを頻繁に活用している。そのため、誤った情報が提供されるのは、正直困る。
だが、そもそも地図に「一なる真実」は存在するのだろうか。正確な情報を積み重ねてゆけば、そこに「完全なる地図」は生まれるのだろうか。
そんな遠回りな発想から、物事を考えてみるのも、良いかもしれない。
空想の街
今からちょうど10年前にも、Googleマップに関して話題になった事象がある。
イギリスのランカシャー州に表示された「アーグルトン(Argleton)」という街が、現実世界には存在していなかった、というものだ。
Googleマップに表示されたその街を不審に思った地元民が、実際にその場所を訪れたところ、そこには何も無かった。
だが、Googleは、その地図を元に、「アーグルトンの求人」や「アーグルトンのレストラン」といった情報をインターネットに提供していた。
この問題はGoogleに報告され、結果「アーグルトン」はGoogleマップから削除された。しかし、ネット上には現在も「アーグルトン」に関する情報が遍在している。
私たちにとって、「アーグルトン」は、存在していないと言えるのだろうか?
不可視の国家
それに対して、Googleマップには全く情報がないものが、現実世界には存在する、という場合もある。その例が、「沿ドニエストル共和国」だ。
沿ドニエストル共和国は、ウクライナとモルドバの間を流れるドニエストル川東岸の「トランスニストリア」という地域にある。
この国は国際的に主権国家として承認されていないため、Googleマップでは「モルドバ共和国」の一部となっている。だが、実際には、モルドバの実効支配は及んでいない。
私は、昨年まで、この国の情報を全く知らなかった。たまたま閲覧したウェブサイトで、この国に旅行で訪れた人の記事を読み、トランスニストリアの歴史を学んだ。
私たちにとって、「沿ドニエストル共和国」は、存在していると言えるのだろうか?
架空の地図
私は、子供の頃、よく架空の地図を描いて遊んでいた。使わなくなったカレンダーの裏に、想像の世界を自由に創り上げていた。それは、時間が過ぎるのを忘れるほど楽しかった。
そんなことをしている人間は、自分だけだと思っていた。しかし、大人になってから、同じ経験を持つ人々が、沢山存在することを知った。
最も有名なのは、空想都市「中村市(なごむらし)」の地図を製作している、今和泉隆行(地理人)さんだろう。
「空想都市へ行こう!」に掲載された、中村市の地図は、一見しただけでは実在のものとしか思えない緻密さを持っている。
私は実際に参加したことはないが、愛好者が集まるイベントも、開催されているようだ。
私たちが生み出す架空の地図は、何を指し示しているのだろうか?
地図の快楽
高舛ナヲキさんの漫画、『ジグソークーソー 空想地図研究会』は、私たちに、地図の謎を読み解く快楽について教えてくれる。
県立東鹿塚高校に通う一年生「筆頭」の男子高生「杜子ダイチ」が、地図を愛する「塔元チリエ」の力を借りながら、自身の記憶の在り処を辿る、ミステリー。
一見、無機質な情報の集合にしか見えない地図。けれど、そこには、都市が形成された歴史が堆積している。
人の記憶は遡って 三歳ごろから はじまるらしい
けどもちろん それより前から この世界はあって
記憶や思い出が 断片的な物 だったとしても
傍にいた誰かの 気持ちと つながって できている
きっとそのつながりは つぎはぎだらけだから どこかに跡が残るんだ
(高舛ナヲキ 『ジグソークーソー 空想地図研究会 (1)』)
駅と駅の間
私は東京の街を歩くのが好きだ。
駅と駅の間を流れる、名前も知らない道。
そこを歩いていると、私はなぜか、自分の居場所を見つけたような気分になれる。
その姿を遠くから見た人は、私の存在を認めることができるだろうか。
スマートフォンでGoogleマップを眺めながら、私はなぜか、そんなことを想像する。
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