あけましておめでとうございます
皆様、あけましておめでとうございます。2023年も、どうぞよろしくお願いいたします。
というか。昨年の宿題を残したまま、年を越すというのは、本当に良くないのが身に沁みてわかったので。今年の仕事は今年のうちにやるのが大事ですね(痛感)。
それでは、早速、2022年度の優秀作品賞を振り返ることにしたい。選考のポイントは、脚本・演出・演技の総合的なクオリティに加えて、独創性が高いこと。そのため、今回は、新作を中心にセレクトしてみた。
例によって、超個人的な評価なので、苦情は受け付けますが、どうか生暖かい目で見逃していただけるとこれ幸い(今年も超弱気)。
③だからビリーは東京で
モダンスイマーズの新作。1月に上演され、鮮烈な印象をキープしたまま、年間のベスト入りを果たす。
タイトルが覚えづらいのが特徴で、「そしてビリーは東京へ」とか「いつかビリーは東京に」とか、色々な候補が脳内を錯綜して困る。のは、さておき、この作品は、コロナ禍の演劇界において、ひとつの重要なメルクマールとなったと思う。
これは、ミュージカル『ビリー・エリオット』を見て、俳優の道を志した大学生・凛太郎の物語。まあ、本当に切ない。切なすぎて、いま思い出しても涙が出そう。彼が、劇団のオーディションを受けるところから物語が始まるのだが、とりあえず団費を払えば入れてくれるという展開が、あまりにもリアルすぎて辛い。
劇団内の人間関係のいざこざとかも、経験したひとにならわかる「あるある」の連続で、見ている間中、爆笑しながら涙が溢れるという、意味不明な心理状態に陥ってしまった。いや、演出家が妙な芸術性にこだわりはじめてドツボにハマってゆく様子とか、傍から見れば笑えるのだが、実際に遭遇したら笑えないのですよ……(回想)
結局、コロナ禍に襲われた劇団は、否応なく空中分解の道を辿ることになるのだが、これが本当に哀しい。何事も、続けるにはお金が要る。そんな身も蓋もない現実を前にした、演劇のなんという無力さ。けれど、その中でも、最後に劇団員たちが残したいと願ったものがあり、それが、あのラストから、オープニングの場面へとループしてゆく。
この舞台が幕を閉じたとき、これが今年の最高傑作になるのでは?と直感した。その想いは今でも変わっておらず、小劇場系のストレートプレイという部門で見れば、圧倒的にNo.1の評価である。
個人的に打ちのめされたのは、凛太郎がアルコール依存症の父親と格闘する場面。ミュージカルのビリーには、最後にはバレエの道を応援してくれる父親がいた。なのに、なぜ自分には、そのような希望が訪れないのか。この問いは、どこか宗教的ですらあり、同じ想いを抱える人間の心を震わせる威力に満ちていた。
本作は、上演後にクチコミで評判を呼び、中日以降は、連日満席の状態が続くほどのヒットになった。『ビリー・エリオット』の興行元である、ホリプロの堀会長まで訪れたほどである。
今後、再演もあるかもしれないが、これは、コロナ禍の東京という時空間でこそ、特別な光を放つ物語だったと思う。その意味でも、2022年のベストとして挙げるのに相応しいと判断した。
②あの夜を覚えてる
劇団ノーミーツとニッポン放送がコラボレーションした、空前絶後のリアルタイムオンライン演劇。
はっきり言って、この企画を思いつく側も凄いが、それを通す側も凄い。関係者全員が、超クレイジーである。どこかの感覚が麻痺していないと実現不可能な作品だと思う(注:褒め言葉です)。
これは、ラジオ局で、パーソナリティ・藤尾涼太とディレクター・植村杏奈が、一夜限りの奇跡を起こす物語なのだが、恐ろしいのは、進行が生放送であるという点。
これがどれほど至難の業か、というのは、容易に想像がつく。劇場と違い、複数の空間を移動するには、カメラワークを緻密に構築する必要がある。どのタイミングで映像が切り替わるのか?どのようにキャストの音声を拾うのか?など、問題が果てしなく山積みである。たとえ失敗しても、後戻りは効かない。そして、インターネットを通じた配信を、安定させることも必要。
案の定、リハーサルの段階では、当初の予定時間を大幅に超過してしまった模様。しかし、あまたの試練を本番までに解決するのが、プロ達の矜持である。今回は、2週に分けて2回、上演されたのだが、初回の配信では、カメラマンが反射で映り込むなどのトラブルがありつつも、キャスト・スタッフの力を総結集して、ラストまで漕ぎ着けることに成功した。
この作品が画期的だったのは、ラジオ番組というプラットフォームを利用して、上演中に視聴者(リスナー)からコメントを収集した点にある。これまでのオンライン演劇は、俳優と観客の間で、双方向のコミュニケーションを実現するのが難しかった。
実際の劇場であれば、拍手をする、笑い声を上げる、などの反応を通じて、両者の心が通じ合うことができる。でも、一方的に演目を配信するだけの作業になると、演劇にどうしても必要な、核心的な部分が欠落した印象になる。ここが、コロナ禍以降の演劇界において、ひとつの重要な課題だった。
本作のラストでは、藤尾涼太がリスナーからのメールを読み上げる場面が、大きな見どころになった。これは、実際の視聴者から送信されたもので、何が出てくるかは、その場にならないと誰にもわからない。だからこそ、その一瞬でしか叶わない、生の感情が湧き起こった。私は、2回とも観劇しているが、それぞれの回で、当然、メールの内容が違い、キャストの反応も変わる。その感覚が、とても新鮮だった。
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藤尾涼太のオールナイトニッポン0
緊急決定!🔥
\このあと放送!#藤尾涼太 2年ぶりのパーソナリティ!
✉️ fujio@allnightnippon.com
#️⃣ #藤尾涼太ANN0▽あの夜を覚えてるhttps://t.co/q3enxijezV
盛り上げてくれよな〜(野々宮P)#あの夜 pic.twitter.com/En4l4Op2PJ
— 『あの夜を覚えてる』公式@続編制作決定! (@ann55_anoyoru) March 27, 2022
この感動を支えたのが、藤尾涼太役の俳優・千葉雄大の演技力である。実は、藤尾涼太は、ある秘密を抱えており、それが物語の中で明かされることになるのだが、それを隠しながらラジオ番組を進行する姿が、絶妙だった。視聴者に、少しだけ違和感を覚えさせる匙加減の上手さ。
そして、クライマックスでの対応力。ラジオを愛してやまない本人の素の部分と、藤尾涼太の役の部分が融合して、奇跡的な表情が生み出されていた。事前に演技を固めることなく、その場の流れに柔軟に身を任せる、しなやかさ。並の俳優であれば、生放送の緊張感をやり過ごすだけで精一杯になりかねない。でも、千葉雄大は、非常にリラックスしているように見えた。自身の秘密が明かされた後の開放感。それを、そのまま体現していた。
『あの夜を覚えてる』は、総動員数23,000人を記録する特大ヒットとなり、ACCの「メディアクリエイティブ部門」で、総務大臣賞/ACCグランプリを受賞するなどの快挙も達成した。すでに、続編の制作も発表されている。
本作が、オンライン演劇の世界で、新たな境地を開拓したのは間違いない。ゆえに、優秀作品賞に値すると信じている。
①ハリー・ポッターと呪いの子
そして、堂々の第1位は、『ハリー・ポッターと呪いの子』である。
この作品については、2022 独断と偏見で選ぶ!超個人的な優秀男優賞3選でも、すでに触れているが、脚本・演出・演技のすべてにおいて、高度なレベルでのパフォーマンスを実現した傑作だと思う。
私が細かいことをゴタゴタ言っても仕方ないので、とりあえず赤坂ACTシアターに行って!と勧めたい。が、それだけだとアレなため、簡単に、この作品の素晴らしさを述べておく。
まず、『呪いの子』は、脚本が面白い。これは当たり前のように聞こえるかもしれない。でも、決して当たり前のことではない。私は昨年、12回も本作を見ているが(見過ぎ)、内容自体がつまらなければ、繰り返し足を運ぶことはなかった。
何度見ても、それまでに気づかなかった、新しい発見がある。これには、複数の解釈を許容する、自由度の高さも関係していると思う。その時々の心理に応じて、作品の見え方が変わってくる。それだけの深い奥行きを持っている。
次に、『呪いの子』は俳優陣が魅力的である。主要な役は、ダブル/トリプルキャスト制を取っているが、役者ごとに、異なる個性がある。全体的には作品主義を保ちつつも、各自の持ち味を活かすように、演出が工夫されている。
メインのアルバスを例に取ってみても、福山康平と藤田悠とでは、まるで印象が違う。福山アルバスが、感情を内側に抱え込む「陰」を感じさせるキャラクターなのに対して、藤田アルバスは、反応を外側に発散する「陽」の要素が強い。少年のような声で台詞の表現力が豊かな福山アルバスと、どこか捻くれていて変顔が得意な藤田アルバスとでは、作品全体の感想も異なってくる。
久々に会えて嬉しかったぜ、相棒よ!#舞台ハリポタ#アルバス pic.twitter.com/HqVP9pR1n5
— 福山康平 (@kohei_fukuyama) November 4, 2022
そこに、親友・スコーピウスや、父親・ハリーとの相性が絡んでくるので、表現の可能性が大変に広い。毎回、芝居の重心が変化してゆくので、同じ脚本でも飽きずに楽しめるのが嬉しい。
最後に、『呪いの子』は、美術・照明・音響・衣裳などのスタッフ陣が一流である。ハリポタの最大の魅力でもある、魔法。これを舞台の上で再現する手腕が並外れている。劇場を改造して、本物の火や水を利用できるようにしたり、細部へのこだわりが半端ではない。
本作の見どころのひとつ、タイムターナー(逆転時計)が登場する場面は、実際に劇場全体の時空が歪んでいるような錯覚に襲われる。これは、さまざまな効果が複合して生まれる芸術なのだが、初めて体験すると、本当に鳥肌が立つ。
また、舞台上のセット自体はシンプルだが、照明の当て方を変えることによって、今の場面がどの時代なのかが直観で伝わる仕掛けになっている。衣裳やカツラも、同じものを複数用意して、場面の切り替えに対応したり、初見ではとても全部の工夫に気づくことができない。
もう、この舞台を作り上げたこと自体が、ひとつの強大な魔法のように思えてくる。この作品に莫大な投資をしたホリプロにとっては、大きな賭けだったと思うが、その試みは成功していると断言できる。あっぱれ。今後もぜひロングラン公演を継続して、作品の魅力をより多くの人々に伝えてほしい。
おわりに
以上、2022年の優秀作品を3点挙げてみた。このほかにも、『エリザベート』や『ミス・サイゴン』などのグランドミュージカルの再演が素晴らしかったりしたのだが、もうそれらを書いているとキリがないので、ひとまず、焦点を絞ってお伝えした。今後、機会があれば、また記事にしたい。
2023年こそは、コロナ禍が明けることを期待しているが、演劇界にどのような新しい風が吹くのか、今から楽しみにしている。あとは、優秀女優賞の記事を書く宿題が残っているので、また時間を取ってMacと格闘することにします……(猛省)
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