新たな恋が離陸する、その前に。【おっさんずラブ-in the sky-】

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空の彼方に

2019年の冬、私が、生命力を削りながら観ていたドラマがある。

その作品の題名は、『おっさんずラブ-in the sky-』

 

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このような言い方は、大仰に聞こえるかもしれない。

深夜ドラマを、何故そこまで真剣になって観る必要があったのか。

そのような疑問が湧くのも、至極当然のことだと思う。

ただ、当の本人からすれば、当時は、そのようにしか言い表せないほどの、特殊な状況を過ごしていたのも確かだ。

今、ドラマの放送終了から半年以上の月日が経って、ようやく、この期間の出来事を、冷静に振り返ることができるようになった気がする。

また、2020年8月2日には、『劇場版おっさんずラブ ~Love or Dead~』が、地上波で初めて放送される。

この機会に、昨年を通じて、私が感じたこと、考えたことを記録しておきたい。

放たれる問い

『おっさんずラブ-in the sky-』の内容について具体的に論じる前に、この作品が放送されるまでの経緯について、語る必要があると思う。

なぜなら、私が本作を観ていたこと自体に関して、多くの人々から、疑問を突きつけられた経験があるためだ。

「なぜ、天空不動産編ではない続編を受け容れられたのか?」という問いに対して、まず、自分なりの答えを整理しておきたい。

微かな違和感

2019年1月26日、『おっさんずラブ』(Ossan’s Love/以下、「OL」と略す)の公式Twitterアカウントが、以下のツイートを投稿した。

この時、私は、微かにではあるが、どうしても打ち消せない違和感を覚えていた。

このツイートが投稿された時点では、すでに劇場版の制作が発表されており、世間でも話題を呼んでいた。そのため、もし連続ドラマ版の続編が制作されるのであれば、その詳細についても触れるのが、自然だと思えた。

以前から、ファンとの交流を大切にすることで知られた、OLの公式アカウントであれば、尚更だった。けれども、続編に関する情報は、その後、一切追加されることはなかった。

その一方で、劇場版で、天空不動産編が完結することが、幾度となく強調された。

この流れの中で、私は、そこに、何か巨大な変化が待ち構えていることを予期せざるを得なかった。

別の未来

続編の舞台が天空不動産でないことを私が確信したのは、牧凌太役の林遣都が表紙に登場した、『プラスアクト 2019年7月号』においてである。

 

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本誌のインタビューで、彼は、別の未来を見据えながら、語っていたように感じた。

彼の中では、OLに対して、一旦の区切りが付いたのだ、という印象を持った。

正直に言えば、このインタビューを読み終えた時に、私は、どうしようもなく、寂しい気持ちになってしまった。

「もう、この先、牧凌太に会うことはできない」という事実を、自分の中で、なかなか消化できなかった。

ただ、その人気は別として、客観的に見れば、牧凌太は、あくまでも作品の中で三番手に位置する役だ。

今作で圧倒的な注目を集めた林遣都が、役者としてのキャリアを更に伸ばすのであれば、主演作に挑戦することも重要になる。

私は、彼の俳優としての才能を信じている。だから、彼の決断に対しては、陰ながら応援しようと決めた。

 

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私が続編の制作を受け容れられるようになるまでには、相当な心の揺れ動きがあった。

私も、感情を瞬時に切り替えられたわけでは、全くない。

生じた亀裂

劇場版は、熱心なファンに支えられて、最終的には約26億円の興行収入を記録するヒットとなった。

だが、劇場版の内容に関しては、賛否が大きく分かれた。

コメディパートが占める比重が大きかったことや、結末が決してわかりやすい「ハッピーエンド」ではなかったことが、激しい議論を巻き起こした。

劇場版に対する私の感想は、「下弦の月が、世界の夜明けを照し出す【おっさんずラブ】」に掲載しているので、もし関心がある方は、あわせて目を通してほしい。

この記事からも窺えると思うが、劇場版をどう受け留めるかという点で、ファンの間に亀裂が生じた。私の周囲にも、「期待していた内容ではなかった」と失望した人々が、少なからず存在した。

心からの応援

けれども、公開から時間が経つにつれて、次第に、劇場版を理解してゆく人々が増えた。

全国各地の映画館で開催された「応援上映」では、ペンライトを手にしたファンが、それぞれの想いの丈を、スクリーンに向かって叫んでいた。

東宝の宣伝担当である、稲垣優氏も、劇場へと積極的に足を運び、ファンサービスを続けた。

 

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私も応援上映に参加したが、その空間にいた人々は皆、「きんぴら橋」の場面で熱狂し、「炎の誓い」の場面で涙を流した。

春田と牧の将来を応援しようと、「私たちが法律を変えるから!」と声を上げた人もいたのを覚えている。

そのように、観客の間で、さまざまな感情が交錯する中、公式SNSで、春田と牧が指輪を嵌めた写真が公開された。

 

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この画像の反響は大きかった。

だが、それは同時に、劇場版の物語が「完結」したことも、象徴していた。

9/27の衝撃

そして、翌日の2019年9月27日、『おっさんずラブ-in the sky-』の放送開始が正式に発表された。

春田創一役の田中圭と、黒澤武蔵役の吉田鋼太郎は続投、それ以外のキャストと世界観は一新、という情報に、ファンの間では激震が走った。

 

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私もいまだに、当時の混乱した状況を、鮮明に記憶している。

ただ、先に記した通り、私は、この瞬間が来るのをずっと覚悟していた。

そのため、正直に告白すれば、むしろ、多くのファンがこの結果を予想していなかったことに対して、驚いていたように思う。

でも、それらの人々に対して、私は、無理に説得したいという感情は持ち合わせていなかった。

劇場版の完結から、続編の発表まで、あまりにも間が無さすぎたことは否定できない。

劇場版が想像以上にヒットし、上映期間が延長されたことも関係しているとは思う。この日が、本当にぎりぎりのタイミングでの発表だったのだろう。

しかしながら、日本には、「残心」という概念がある。何かの行為を終えた後も、引き続き注意を払い、そこにしばらく心を残すこと。それは、相手に対する思い遣りの現れとなる。

本来であれば、ファンが劇場版の余韻に浸れる時間が、そこに存るべきだったと思う。

この展開は、どうしようもなく、急ぎすぎだった。

二人の新キャスト

情報公開の前まで、私は続編を視聴するかどうか、真剣に迷っていた。

続編に関しては、さまざまな噂が事前に漏れ聞こえてはいたものの、その内容に対して、肯定的に評価できるかどうか、自信が持てなかった。

しかし、発表された二人の新キャストを目にした瞬間、私はそこに、不思議な繋がりを感じ取った。

 

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千葉雄大戸次重幸。両者とも、私がこれまで長い年月を掛けて、その活躍を見守ってきた俳優である。

相当な覚悟

千葉雄大は、ファッション誌『CHOKi CHOKi』の専属モデルとして活躍した後、『天装戦隊ゴセイジャー』(テレビ朝日)のアラタ/ゴセイレッド役で、俳優としてデビューしている。

彼は、『桜蘭高校ホスト部』(TBS)の埴之塚光邦(ハニー先輩)役や、映画『帝一の國』の森園億人役などで幅広い人気を獲得し、独自のポジションを築き上げた。

千葉雄大に関しては、デビュー前からその存在を知っていた。

彼は、ただ単に容姿に秀でただけの俳優ではない。人間の心理の機微を、その身体を通じて繊細に表現できる、稀有な人物である。

千葉雄大は、『家売るオンナ』(日本テレビ)の足立聡という当たり役を持つ。『家売るオンナ』の舞台は、『おっさんずラブ』と同じ、不動産会社(テーコー不動産)だ。

もし、OLの続編が天空不動産編だった場合、千葉雄大は出演しなかった可能性が高い。

だが、その彼が、『おっさんずラブ-in the sky-』では、物語の鍵となる、三番手として出演する。

 

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千葉雄大は、複数のドラマで、主演を務めた実績もある。あえて、リスクを背負ってまで、この世界に飛び込む必然性はない。

私は、彼が相当な覚悟を持って、パイロット・成瀬竜役を引き受けたことを、直感的に察した。

同時に、私は、役者としてその選択をした彼を、支えなければならないという、使命感を覚えた。

新たな化学反応

戸次重幸は、北海道・札幌市を拠点とする演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバーである。

私は北海道出身のため、TEAM NACSは、非常に親しい存在であり続けている。

過去に佐藤重幸という名で活動していた時代から、私は彼の、ユニークな人となりに惹かれていた。

周囲から「好きな男性のタイプは?」と質問された時には、彼の名前を出していたこともある。

近年の戸次重幸は、NHKの連続テレビ小説『なつぞら』など、多数の人気作品に出演し、その知名度を全国区に広げた。

その彼が、今回、整備士・四宮要役として、OLチームに加入することになった。

 

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戸次重幸は、台本を隅々まで読み込み、演技を緻密に計算するタイプの俳優だとされる。彼の演技に対するアプローチは、田中圭のそれとは明らかに異なっている。

それゆえに、戸次重幸と田中圭が、現場でどのような化学反応を起こすかを観たいという、強い好奇心に駆られた。

決心を固める

恐らく、新キャストのうち、どちらか一人だけでも違っていたら、私はこの作品を視聴していなかったかもしれない。

私は、彼らを登用した制作陣に対して、心の中で降参を宣言した。

そして、このドラマを最後まで見届けることを決心した。

離陸までの記憶

『おっさんずラブ-in the sky-』の広告には、「新たな恋が、離陸する!」というキャッチコピーが使用されている。

だが、今回は、あえて遠回りして、私が「離陸」する直前までの感情の変化について振り返ってみた。

おそらく、私の経験に、共感してくれる人は少ないかもしれない。それでも、一人の視聴者の記憶を、拙いながらも、文章として残しておきたかった。

 

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本作の感想を書くに当たっては、公式シナリオブックを手元に置きながら、映像を再度、最後まで細かく見直した。

すると、リアルタイムで視聴していた時とは異なる印象を抱いていることに気づいた。これは自分自身にとっても、新たな発見だった。

その詳細については、また追って、少しずつ公開したいと思う。







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