魚谷侑未が泣いた夜、私はMリーグに魅了された

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勝利者の涙

その勝利者インタビューで、魚谷侑未は涙を流した。

2019年1月22日、Mリーグ第58節。この試合で、私はMリーガーが背負っている世界の重さを、初めて知った。

もしMリーグをまだ観たことがない人がいれば、ぜひ一度、自分の目でその魅力を確かめてほしい。

「Mリーグ」とは

Mリーグは、2018年に発足した、日本初の競技麻雀のプロリーグである。発起人は、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋

藤田は『仕事が麻雀で麻雀が仕事』という著書を出すほど、麻雀の魅力に取り憑かれてきた人物だ。

仕事が麻雀で麻雀が仕事 (近代麻雀戦術シリーズ) [ 藤田晋 ]

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ビジネスマンとして多忙な日々を過ごす中、麻雀のテレビ対局に数多く参加。2014年には、並居る強豪を抑えて「麻雀最強戦」で優勝。2016年には、自身が代表を務めるAbema TVで、招待制の「RTDリーグ」を開始。

その藤田が、麻雀のプロスポーツ化を目指して昨年設立したのが、Mリーグ。電通、博報堂、U-NEXTなどの大手企業7社がスポンサーとなり、ドラフト会議で選手を指名するという、大規模な仕掛けが話題になった。

Mリーガー・魚谷侑未

Mリーグに参加する選手は、Mリーガーと呼ばれる。

Mリーガーは、5つのプロ麻雀団体(日本プロ麻雀連盟・日本プロ麻雀協会・最高位戦日本プロ麻雀協会・RMU・麻将連合)のいずれかに所属する、トップクラスの実力者たちだ。

日本プロ麻雀連盟のトップタイトル「鳳凰位」を4期獲得した「総帥」前原雄大、芸能界最強の実力を持つ俳優兼プロ雀士の萩原聖人など、いずれも麻雀ファンであれば誰でも知っている21名が、初代Mリーガーとして選出された。

その中で、魚谷侑未は、セガサミーホールディングスから1位指名を受け、現在「セガサミーフェニックス」で闘っている。

魚谷は、日本プロ麻雀連盟A2リーグに所属する、プロ雀士。昨年は、「王位戦」「日本オープン」「女流プロ麻雀日本シリーズ」の3つのタイトル戦を制覇し、三冠王となった。

麻雀は、運が試合結果を大きく左右するため、タイトルを同時に複数獲得することは奇跡に近いと言われる。

しかし、魚谷は、ベテラン雀士にも負けない、読みの正確さと、スピード感溢れる打ち筋で、これまでの激戦を制してきた。

「団体戦」という磁場

このように高い実力を持つ魚谷だが、Mリーグでは、その独特な磁場に長く苦しめられてきた。

Mリーグは、7つのチームが争う団体戦。試合でトップを取ると得点が大きく加算されるが、逆にラス(最下位)を引くと、ペナルティとして、得点が大幅に減少する。

また、すべての試合は、Abema TVで生中継され、多くの麻雀ファンがコメントする。「パブリックビューイング」が実施される日は、ファンと直接顔を合わせる機会もある。

ファン、チームメイト、スポンサーへの責任感が、選手の心理の深い部分に、目には見えない影響を及ぼしてゆく。

絶体絶命

1月22日の試合前、魚谷は、個人成績では21人中19位という所まで追い込まれていた。

特に何か大きな間違いをした訳ではない。魚谷は、自身のスタイルを忠実に守り、その場その場で正確な判断をしてきた。「デジタル派」として、理論を重視し、常に冷静な打牌を重ねた。

だが、結果が伴わない日々が続いた。

所属チームのフェニックスは、7位中7位。Mリーグでは、80戦で上位4チームにまで食い込めなければ、優勝決定戦であるファイナルシリーズに進出できない。

残り試合数はわずか15戦。絶体絶命と言える窮地。

第1試合、魚谷は相当なプレッシャーを抱えていたはずだ。一打一打に、心が削り取られるような展開が続いた。

そして、残酷にも、その結果はラスだった。

敗北の道程

第1試合でトップを取ったのは、渋谷ABEMASのリーダー・多井隆晴。実力者の多井も、Mリーグでは辛い展開を強いられており、勝利者インタビューでは、喜びというよりも、その苦しさが窺えた。

けれども、その裏には、テレビの画面に映らない選手たちがいる。

試合に敗北した後、チームメイトが待つ楽屋まで帰るその道程の長さは、Mリーガーにしかわからないだろう。

背水の陣

だが、魚谷は第2試合にも連闘した。試合開始前の入場時、深く一礼した魚谷。その表情からは、壮絶な覚悟が垣間見えた。

Mリーグ個人成績首位の園田賢、RTDリーグ2018優勝者の小林剛、そして、「最速最強」多井隆晴。このトッププロ3名に囲まれた魚谷は、背水の陣を敷いた。

ライバルからの攻めを真正面から受け、果敢に反撃する。その上で、リスクを覚悟で、更なる加点を狙う。

その強靭な姿勢が、この試合での見事な勝利につながった。

重圧を乗り越えた先に

試合後の勝利者インタビュー。この場で、「まつかよ」こと、リポーターの松本圭世の横に立つことは、Mリーガーにとって最高のプレゼントだ。

魚谷は、松本からの質問に答えながら、チームメイト・近藤誠一の言葉を思い出す。

「ゆーみん、まだ大丈夫だから。次がんばってね」

「最高位」のタイトルを持つ近藤は、魚谷と年齢は離れている。だが、同じトッププロとして、魚谷の心情は、理解できていたはずだ。そして、その意味は、魚谷にしっかりと伝わっていた。

涙を流す、魚谷。これまでは、常に理路整然と試合を振り返っていた彼女が、感情を解放した。

私は、この時に初めて、Mリーガーが抱える重圧を、思い知った。

そして、それを乗り越えた者だけが入れる世界があることも。

闘いは佳境に

フェニックスの順位は依然として7位だが、まだ逆転の可能性は十分に残されている。

Mリーグ開幕時から、長らく最下位の座にいた「麻雀格闘倶楽部」も、「魔王」佐々木寿人の大活躍により、瞬く間に3位にまで昇りつめた。

麻雀は、運が試合結果を大きく左右すると述べた。だが、その運を引き寄せるのは、愚直なまでに麻雀に向き合う、選手の信念だと思う。

残り試合数が少なくなったMリーグは現在、佳境に差し掛かっている。

今からでも遅くはないので、どうか最後まで、Mリーガーたちの闘いを見守っていてほしい。







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